ヤングアダルト文学の歴史

 

い わゆる「子どもむけ」の本を卒業した、10代(おおむね18歳ぐらいまで)の「子ども」でも「大人」でもない年齢層をオーディエンスとして設定した文学 は、20世紀前半のアメリカ合衆国で書きはじめられました。その後の発展も北米英語圏、特に合衆国を中心に進みました。アメリカ合衆国は、第二次世界大戦 後、ベビーブーマを中心に若者文化が開花しますので、これは妥当な展開だと考えられます。

 

それまでこの年齢層の子どもたちは、通常娯楽性が強く、それほど高度な知力を必要としないことも多い「大衆文学」を読むものと考えられていましたが、この流れを大きく変えたのは、ご存じの方も多いJ.D.サリンジャーの『ライ麦畑で捕まえて』(1951)の出版につづく、小説群の登場でした。1960年代にジャンルとして確立されたYA文学の典型例は、しばしば大人への批判、性、自分を取り巻く「世界」の発見などを題材とし、主人公は自らのおかれた困難な状況や「制度」と対峙し、「世の中とおりあいをつけて」いきます(カーペンターとプリチャード 476

 

カーペンターとプリチャードは、一部の作家を評価する一方で、「このジャンルの小説には、作品の独自性がめったにない。ほぼ一様に声高で、登場人物の成長も読めてしまう」(476)と批判的にこのグループの作品を評価しているように思われます。しかし、その後、この分野の作品は多様化を進めており、R.S.トライツ(2000)などの研究からもわかる通り、この指摘は現在では必ずしも当てはまらなくなっています。

 

そして、多くのすぐれた作品は、「ヤングアダルト」という枠を超え、いわゆる 「大人」を含む多様な読者層に愛されています。そして、現在では、これらのターゲットとして前提された読者層以外にも広くアピールする文学は、「クロスオーヴァー文学」としても紹介されています。その代表例はみなさんもご存じの「ハリーポッター」シリーズです。

 

参考文献(抜粋)



Trites, Roberta Seelinger. Disturbing the Universe: Power and Repression in Adolescent Literature. Iowa City: U of Iowa P, 2000.